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登記簿を見れば「危ない取引先」は見分けられる プロが教える

不動産登記簿・商業登記簿をこう読めば、会社の内情と危険シグナルが見えてくる!

目次

第1章 信用調査は取引の大前提
第2章 不動産登記簿の調べ方
第3章 不動産登記簿でここまでわかる
第4章 商業登記簿の調べ方
第5章 商業登記簿でここまでわかる

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内容説明

■「第3章 不動産登記簿でここまでわかる」より


★遺産分割で不動産の所有権が移転されている★

●家庭の問題で仕事にも影響が●

左の登記簿は、山下花子さん(仮名)の所有する不動産の登記簿です。この登
記簿から、どんなことが読み取れるでしょうか。

この土地は、もともと山下晴夫(仮名)さんが相続により取得したことが、順
位番号1番の記載からわかります。その後、平成7年10月11日に山下晴夫さん
が死亡したため、平成8年5月21日に順位番号2番で山下花子さん、山下一郎
さん(仮名)、山下次郎さん(仮名)、横田純子(仮名)さんのために、相続
登記がなされています。

ところが、平成11年3月18日には、平成11年3月3日の遺産分割を原因として、
山下一郎さん、山下次郎さん、横田純子さんの持分全部が、山下花子さんに移
転されています。

●プロの目●

山下さんの家庭では、相続でもめてしまったようですね。もしかすると、いま
だに家族関係がうまくいっていないかもしれません。

もめてしまった原因は相続のようですが、このような紛争は、当事者である相
続人はもちろんのこと、実質的には相続人の家族も巻き込んでいることが、多
く見られます。

相続人の家族まで巻き込んでいるとなると、家庭内の関係もギクシャクし、そ
れが原因で仕事に力が入らなくなってしまって、経営危機を招くことも見受け
られます。

■相続にはいろいろなパターンがある

このケースは、山下晴夫さんの死亡により相続が発生しており、山下晴夫さん
の相続人は山下花子さん、山下一郎さん、山下次郎さん、横田純子さんの4人
であったと推定できます。そして、山下花子さんは山下晴夫さんの妻、山下一
郎さん、山下次郎さん、横田純子さんは山下晴夫さんと山下花子さんの子供で
あると思われます。

相続人が配偶者と子供の場合、民法では、配偶者の相続分は2分の1、子供の
相続分は2分の1、子供が数人いる場合は、それぞれの相続分は均等と定めら
れています。

登記簿では、山下花子さんの持分は6分の3(実質的には2分の1ですが、登
記する際には全員の分母を同じ数にするのが慣例となっています)となってい
ますから、山下花子さんが妻、その他が子供であろうということになります。

相続の登記をする場合、どのような経過をたどって登記まで行なうのか、その
様態はさまざまです。いろいろなパターンが考えられますが、主な様態を次に
掲げてみます。

(1)相続人全員で遺産分割の話し合いをして、その結果を登記する。
この場合、死亡者の生前に十分な贈与を受けている相続人や、相続放棄手続
き(裁判所への届け出)をした相続人は、話し合いから除くこともできる。

(2)遺産分割の話し合いがつかない場合には、裁判所において調停や審判手続
きなどを行なって、その結果を登記する。

(3)遺言書がある場合には、話し合いをしなくても相続登記をすることができ
る。

(4)話し合いがつかない場合には、法律上の相続分で相続人全員の名義に登記
することができる。
この場合、後日、相続する方法が決まったら、遺産分割を原因として最終の
取得者に登記することができる。

■「遺産分割」は相続争いの結果

(1)から(3)の場合には、死亡者から最終の取得者に直接、登記することが
できます。このとき、登記簿に記載される【原因】は、いずれの場合も「平成
○年○月○日相続」(日付は死亡者の死亡の日)となります。

山下家の場合、順位番号2番で相続人全員に登記がされていますが、これは
(4)の方法で、相続人全員に登記がされたものだと思われます。

しかし、(4)の方法では、最終の取得者のために、もう1度登記しなければな
らないので、コストもかかってしまいます。ですから、相続人の話し合いなど
がスムーズに行なわれる場合には、(4)の方法がとられることは、ほとんどあ
りません。

では、なぜ、わざわざ(4)の方法がとられたのでしょうか。

(4)の登記申請は、相続人全員が協力しなくても、誰かひとりからでも申請す
ることができるのです。つまり、自分に権利があることを、登記簿のうえでも
主張するために、一部の相続人がコストを度外視して申請した可能性が高いと
考えられます。

ちなみに、事例の場合、誰が順位番号2番の登記を申請したのかまでは、登記
簿からはわかりません。

最終的に、この不動産は山下花子さんが取得することになったため、順位3番
で残りの6分の3を花子さんへ移転する登記がされています。

その際、それが普通の話し合いで決まったものなのか、あるいは裁判所の調停
等による手続きによって決着したものなのかは、登記簿からはわかりません。

しかし、決着するまでに、晴夫さんが死亡してから、少なくとも3年半もの歳
月を必要としたことだけは、確かです。

このように、「遺産分割」を原因に登記がされている場合には、相続の話し合
いがスムーズに行なわれなかった可能性があるのです。

もしも、兄弟で経営している会社の内実が相続問題でもめていたということに
なれば、経営者の意志疎通にも疑問を持たざるをえません。

また、相続問題は相続人だけの問題ではなく、その家庭内の問題にも発展する
ことが多く見受けられますから、場合によっては仕事や家庭にも悪い影響が出
てくる可能性があります。

......................................................................

★遺留分減殺の登記がされている★

●しこりを残した相続●

左の登記簿では、1度、山下一郎さん(仮名)が相続によって所有権を取得し
たことが、順位番号2番の記載からわかります。しかし、そのわずか数カ月後
に、所有権の一部が山下次郎さん(仮名)に「遺留分減殺(いりゅうぶんげん
さい)」という原因によって移転されています。

ここから、どのようなことが読み取れるでしょうか。

●プロの目●

山下晴夫さん(仮名)は、「山下一郎に対して、この不動産を相続させる」と
いう遺言を残していたようですが、この遺言は、山下次郎さんの遺留分を侵害
してしまったようです。

そこで、次郎さんは遺留分減殺請求権を行使したわけですが、おそらく調停な
どの裁判の結果、この登記をしたのでしょう。

したがって、相続人の間では、しこりは取れていないことが想像できます。

■遺留分とはなにか

遺留分とは、相続人に最低限保障された相続分のことをいいます。

これは、死亡した人が生前に遺言で死亡時の財産を処分する自由と、相続人で
ある配偶者や子等の生活の保障との調整をはかったものであると、いわれてい
ます。

たとえば、遺言者が「全財産を誰々に遺贈する」といった遺言をしたような場
合、これが実現されてしまえば、遺言者の死後、遺言者の財産に依存して生活
をしていかなければならない子供たちなどにとっては、非常に酷な結果になっ
てしまいます。

そこで、民法は、遺言者の財産処分によっても奪われることのない、相続人に
留保された相続財産の割合を定めています。これを遺留分と呼んでいるのです。

遺留分の割合は、民法第1028条に定められていますが、それによると、

(1)直系尊属(両親や祖父母)のみが相続人である場合には3分の1
(2)その他の場合には2分の1

となっています。たとえば、相続人が配偶者と子2人であった場合、法定相続
分は、配偶者が2分の1、子はそれぞれ4分の1となります。

さて、この事例における、それぞれの遺留分ですが、右の(2)にあたりますか
ら、総体的な遺留分が2分の1です。これを個別に考えてみると、配偶者が4
分の1、子が8分の1ずつということになります。

■話し合いによる解決も可能だったはず

遺言者が、遺留分を無視して遺言を作成することは自由です。

遺言を作成する方法はいくつかありますが、たとえば公証人に依頼して遺言を
作成してもらう場合でも、遺言の内容が遺留分を侵害しているからといって、
公証人が遺言の作成を拒絶することはありません。

もちろん、そのような遺言を残すときには、その事情を遺言書に記載し、トラ
ブルを未然に防ぐような工夫をするべきであることは、いうまでもありません。

さて、この登記簿からうかがい知ることができる事実としては、「一郎さんに
この不動産を取得させるという遺言が存在し、その遺言にもとづき、相続の登
記をしたが、遺留分を侵害されたという次郎さんの主張によって、次郎さんの
遺留分について持分移転の登記がなされた」ということになります。

相続人同士の関係がうまくいっていれば、たとえ遺留分の侵害が認められる遺
言があったとしても、話し合いによって円満に解決することは、可能です。

もしも円満に解決できた場合には、わざわざ遺留分減殺を原因として所有権一
部移転の登記をしなくても、遺産分割協議をしたうえで、いったん一郎さんの
登記を抹消し、あらためて次郎さんなどの名義に相続登記をすることも可能で
す。

しかし、この登記から推測するに、山下春夫さんの相続については、相続人の
間の関係が必ずしも円満ではなかったものと想像できます。

しかも、登記簿を見ますと、一郎さんと次郎さんは同じ住所に同居しているこ
とがわかります。一郎さんは、自分の単独名義に登記する際に、春男さんの遺
言書があったことを次郎さんに告げないで登記してしまったのでしょうか(も
っとも、法律上は告げる義務はありませんが)。あるいは、次郎さんとの話し
合いが平行線のまま登記を先行したのかもしれません。

■「相続」が「争族」になるとき


遺留分減殺請求権の行使自体は、相手方にその旨の意思表示をするだけでよい
のですが、それだけで当然に不動産の名義変更が行なわれるわけではありませ
ん。

現実問題として、不動産の名義の一部を登記するには、原則として相手方の協
力(登記申請の内容に合意することはもちろん、司法書士に対する委任状など
の書類には実印を押印し、印鑑証明書を添付しなくてはなりません)が必要と
なってきます。

しかしながら、通常、遺留分減殺請求権を行使するようなケースでは、そもそ
もそのような協力を相手方に求めることができるような、良好な関係にはない
ことが多いのが現状です。

そうすると、最終的には、遺産分割調停もしくは遺留分減殺調停などの裁判手
続きを経なければなりません。その結果、調停調書ができあがれば、相手方の
協力を得られなくても登記をすることができるため、調停調書にもとづいて単
独で名義変更手続きを行なう例が圧倒的に多いのが実状です。

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